月白く 4
時雨する枯くさの中に犬をりて傷なめてゐる石のかたへに
見たままの風景を、とりあえずノートにかきつけたけれど、これは時たって見ると何とも浅薄な視覚的なものにとどまった歌に思えてきました。
・・・まこと、その通りでした。
何としても「石のかたへに」が気になって引きしまらず、また「枯くさの中に」と位置を示す表現が二ところにあることも気になりました。
いく時かたつと、私がこの歌を作るべく心を動かしたのは、犬がみずから、みずからの傷を癒す術として、たくましい生き方をしていることへの「生」の感動でした。
その叡智に似たものでもありました。
そこで、もう一度この一首を構成しなおすことにして、
傷甜めてゐるけだものも濡れてをり時雨してかの石もぬれゐる
・・・となったのです。
犬もぬれ、枯くさもぬれ、そしてその犬のいたであろうかたわらの石もぬれています。
秋から冬にかけて荒涼と変っていく草はらの、とらえどころないしぐれの風景がここにひろがりはじめたように思いました。
こせこせと「石のかたへに」などせずに、「時雨してかの石もぬれゐる」という冷えびえとしたものの流動性を、私は一応は表現しえたように感じて、この一首を落ちつけたのです。
風景は、私の心の風景そのものだ、ということを私はこの頃から信じてきたようです。