月白く 3
私は夜のみずうみを更けるまで窓にたって見ながら、何という、冷徹な夜なのか、何という大きい自然のしずまりなのか、と骨がきしむほど身を引きしめていました。
みずうみを夜更けまで見ていたのは、このひろい旅の宿で私ひとりであったでしょう。
この大きい、きびしい原始林にかこまれた、ずしんと身にひびくような湖も、そして光る白い月も、私一人のためにあるようにさえ感じられるのでした。
私はこの湖の旅をしたために、自然というものは無言で私にささやいてくれる大きい力をもっているものだ、ということを考えるゆとりをもちえたのでした。
山の秋は迅速です。
曇りがかげを置くような日は、すぐしぐれが襲います。
迷い多く生きるものにとって、それは季節のきびしい鞭にもかわります。
私は山のしぐれをきくたびに、あ二、また一冬の籠りの日が、いや応なしにやってくるという思いに閉ざされます。
そのような日、野に出ると、枯くさ原で犬がしきりにわが傷を甜めている風景に出逢いました。
このたくましいけだものの習性を見ていると、人間のこわれやすく、癒えがたい心の傷を苛立たしい程なさけなく思うのでした。